日本SF作家クラブ編『ホストコロナのSF』

 短編にしても短めのものが集まっているので、日に数編ずつ読んでいる。ケン・リュウに出会い満足してしまい、毎年の『年刊SF傑作選』も最近なんだかはまれないなと思って、もう自分に国産SFは必要ないのでは、などと思ったことはあったが、なかなかどがうして、いいものばかり。それぞれの作家の巧みさや上手さが出ているものが多いようで、読んでいて楽しい。…そうでもないものも少数あるが。

 これまでに読み終わったものだけ、それぞれ短評を。

  • 小川哲「黄金の書物」。どうした、全く切れ味がないぞ。書物に偽装した違法薬物の密輸なんて、なんでそんなよくあるシチュエーションを選んだんだ。
  • 伊野隆之「オネストマスク」。王道のマスクSF。ガジェット付き。マッチポンプ式の売り込み方など細部にリアリティがある。
  • 高山羽根子「透明な街のゲーム」。う~ん、文章はうまいなあと思うのだが、展開に新鮮さや驚きはない。
  • 柴田勝家「オンライン福男」。現実を超えて太陽系より大きく広がっていく福男選びレース。爽快で楽しかった。
  • 若木未生「熱夏にもわたしたちは」。あの若木未生が描く百合SF。素晴らしい青春小説ではり恋愛小説であり。この短さにこれだけの熱量があるのはスゴい。
  • 柞刈湯葉「献身者たち」。この作家はこういう小説を書く人だったのか。日本を含む先進国と途上国で厳然と異なる生命の重み、医療体制の差。この小説がこの本に含まれることで、日本のSF界の誇りは保たれ、もっというと救われたと思う。
  • 林譲治「仮面葬」。小説が上手い。こういうのを読むと、本を読んでてよかったと感じる。
  • 菅浩江「砂場」。シチュエーションにさすがに無理があるのではないかと思うのだが、子どもという弱者の存在や母性や差別といった有無を言わさぬ要素を混ぜることで強引に決着させている。自分の考え方に白黒つける思考方法にリアリティを感じる人もいるのだろうが、私はよく分からないんだよな。
  • 津久井五月「粘膜の接触について」。カビとキノコのメタファーからそんな遠いところへ行くとは。好きです。
  • 立原透也「書物は歌う」。エモ系ファンタジーSF。分かってもいてもやっぱり泣ける。文章がうまい。